2話:彼と旅に出ること

「面目ない・・・」
「やっぱり、こうなってしまいましたね」
 彼――咲兎は、迷子になったあげく日射病で倒れていた。王子というなり
ではないが、綺麗に結われた髪は長く、気品がある。
「・・・で・・・咲兎さん。そんな体力なくて旅に出れるんですか?」
 雪子が呆れ顔で聞いた。
「じゃあどーしろって言うんだよ!?」
「どうしましょうかねぇ・・・」
 咲兎と雪子が話しているのを見、綾子と鏡はなにやら相談を始めた。
「あの人を連れて歩き回るの~?」
「そうらしいな。こいつ一人じゃ、死ぬぞ絶対」
 長く溜め息をついて、鏡はがばっと立ち上がった。
「よっしゃ!!行くぞ野郎どもー!!」
「なっ何?盗賊風?」
 問いつつも、同じポーズを始める綾子。そしてそのまま、咲兎を引きずって
外へ出た。

「ぎゃー誘拐ー!」
「誘拐っていうか、子守りみたいよね、これ」
 綾子はなおも咲兎をひきずりながら、道を歩いていた。
「あー、子守りか。ぴったりだな。それ」
 鏡が頷いた。
「お前等、俺を子供みたいに扱うんじゃねーよ!!」
「なにを言っちゃってんのよ若造がッ!ひきずられたくなかったら
 せかせか歩け!」
「一つ・・・聞いていいか?咲兎」
 鏡が振り向き、咲兎に声をかけた。
「なんだ?」
「・・・錫杖ってどこの国にあるんだ?」
 咲兎はしばし考えて、口を開いた。
「さあ?」

 ・・・・・・。

 とりあえず、そんな会話をしながら――ある村へ辿り着いたのである。
「陽の村ね。ここは昔――私達花々の支配下だったんだけど・・・なに
 してんのかな、村の人ら」
「花々(かか)?」
 咲兎は綾子に問う。
「花々っていったら、この地を3日で支配できるといわれた大妖怪だったな。
 今はもういないって聞いたけど」
「あー。正確には、そうなんだけど」
 すると、いきなり雷鳴が轟いた。続いて、少女の声が聞こえる。
「鏡さま――――ッッ!!」
「げ・・・」
 鏡は後ずさった。
「こいつがいること、忘れてた・・・」
「秋夜!」
 綾子は秋夜、と呼ばれた少女に近づいた。
「お久しぶりですわ、綾子さん。それで、今回は何をしにここへ・・・」
 首をかしげた秋夜に、鏡が答えた。
「今日は、ここを荒らしに来たわけじゃないんだ」
「え?荒らすこと以外に、何かすることがあるんですか?」
 鏡は咲兎をつまんで、秋夜見せる。
「こいつの付き添いで、どっか遠くの国まで」
「・・・なんですの?この方、人間じゃないですか」
 話からすると、この3人は妖怪、ということらしい。

「・・・それで、国まで旅を?」
「ま、そういうこと」
 秋夜と鏡が話している間、綾子は咲兎と共に村を観光していた。――観光、と
いっても、歳のいった老人たちは、綾子を見るとたんに逃げ出していたが。
「あぁ、お年よりは私のこと覚えているのね・・・」
「お前一体、この村で何やらかしたんだ?」
 綾子はにっこり笑って即答した。
「村焼いたり子供さらってみたり~、落とし穴に家五個分ぐらい沈めてみたり」
「そら怖がられるわな」

 何故か綾子と咲兎が帰ってきた頃には秋夜の同行が決まっていた。
「・・・なんで?鏡ちゃん」
「俺は知らん。というか、ついていきたいって言ったから」
「そんなもんですか」
 暗くなり始めた空に、鳥が何羽か飛んでいた。

続く


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